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「補習授業校で学ぶ」とは
元ロンドン補習授業校校長 富澤敏彦
 文部科学省の月報『気球船』平成15年6月号に掲載したものです。
 
 多くの方は、「補習授業校は、週に一日だけだから、日本の学校や海外の日本人学校より四日も少ない。」という捉え方をしています。その上、「補習」という言葉に引きずられて、「ちょっと何かを付け足す所」というくらいの認識です。そこから「補習授業校でもダイジョウブだろうか?」という不安も生じるわけです。
 
この視点は補習授業校だけを見ているもので、月曜日から金曜日までの現地校のことがすっぽり抜けています。子どもたちの全人格的な成長を考えるものですから、その五日間も含めて「補習授業校で学ぶ」とはどういうことなのかを考えてみましょう。すると、「国語」それ以外の教科を、2つの言語、2つの学校で学ぶという見方が出てきます。

 通学日数で見てみましょう。日本の学校の授業日数は、「学習指導要領」で年間35週とされており、完全5日制ですから175日です(実際に通学するのは200日前後)。一方、補習校の子どもたちは、現地校200日(イギリスの法令による最低日数)+補習校40日ですから合計240日です。イギリスの学校には始業式も終業式もありませんから、正味200日です。つまり、勉強する日数は、日本の学校や海外の全日制日本人学校に比べてはるかに多いのです。

 現地校での勉強は、題材や形態は異なるもののSCIENCEの分野は基本的に日本と同じです。ですから、それを「日本語ではかる学力」に置き換える国語力さえあれば、200日分は通学日数としてカウントできます。補習授業校はそのための国語力の保持と身長を目指して指導しているのですから、もちろん「ダイジョウブ」なのです。それは、多くの帰国生によって証明されています。

 それにまた、子どもたちが学ぶのは教科だけではありません。日本では「学習指導要領」に掲げる「調和のとれた育成」を図るために、「道徳」「特別活動」「総合的な学習」を行っていますが、補習授業校の子どもたちは、これらについても2つの学校で学んでいるのです。

 私が全都道府県から抽出した学校に向けて行ったアンケート調査によれば、現地校+補習校を経験した子どもたちは、「自主性・責任感・根気強さ・創意工夫・公正さ」において国内の子どもたちよりも優れているとの評価を得ています。

 現地校+補習校の形態がなぜ特性を育てるかというと、それが子どもたちにとって一種の極限状態であり、持てる力を最大限に引き出す装置になっているからです。

 現地校に初めて行った日のことから想像してみましょう。「じゃあ頑張ってね。」と言って親が帰ってしまったあと、子どもはどうするでしょう。お手洗いに行くにはどうしたらよいのか、お昼ご飯はどこでどのように食べたらよいのか、誰かに尋ねることも含めて、すべて自分で考え、自分で解決しなければなりません。そのとき、友達や先生から情報を得ようとして発揮する集中力は、日本にいたらおそらく経験することがなかったほどのものでしょう。日本の「学習指導要領」が目指す「生きる力」を、のっぴきならぬ情況で追求するのですから、当然しっかりと身に付きます。

 こうしたことを「国語」以外の教科について毎日行うのです。その日々を指して、ある帰国生は、「あんなに勉強したことはなかった。」と言い、別の一人は、「大変だったけど、よかった。」と述べています。苦労や疲れを訴えるのではまったくなく、充ち足りた気持ちで振り返っているのです。おそらく全力投球した子どもたちの誰もが共通してそう思っていることでしょう。

 「補習授業校で学ぶ」とは、こういうことなのです。

 では、保護者は何をしたらよいかということですが、まずは子どもを心から賛嘆し、応援することです。「頑張れ」ではなく、「頑張ってるね。」と認めることが基本です。その上でのサポートです。

 サポートの内容は、学年や在留年数によって違いますから、担任の指示や要請に即してご協力ください。

 前述したアンケート中の帰国生の保護者からの回答によると、学年を問わず、次の3つが大切とされています。

 @ 補習校の勉強をしっかりやること。

 A 家庭では、日本語を使うこと。

 B 日本語の本をたくさん読むこと。


 これらは、実は補習授業校の保護者の務めでもあるのです。理由は、補習授業校は、保護者の自発的な意志によって設立され、自主的に運営される学校であるからです。

 また、土曜日ごとの“点”としてやってくる授業日に学習したことを“線”とするためには、「家庭は第二の教室、保護者は第二の担任」となって、精神的なサポートだけでなく、実質的な役割を担っていただかなければなりません。つまり、土曜日の授業が成立する鍵は、保護者の皆様が握っているのです。「補習授業校で学ぶ」ことのこれも大きな要素であることを、どうぞご理解ください。 
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